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《コラム》従業員の配偶者に対する健診費用の会社負担

◆従業員に対する健康診断は会社の義務 労働安全衛生法66条により、「事業者は、労働者に対し医師による健康診断を行わなければならず、労働者は、事業者が行う健康診断を受けなければならない」とされています。こうした健康診断の受診費用は、通常必要と認められる範囲を超えるものを除き、会社の福利厚生費として扱われます。 なお、労働者ではない役員は、厳密に言うと労働安全衛生法の対象者ではありません。しかしながら、健康管理義務がないわけではありませんので、法律上での義務がなくても健康診断を受診してもらうことで、実務上のリスクを下げることができるため、同様に会社の福利厚生費となります。 ただし、受診費用の負担対象者が役員や特定の地位にある者だけとされている場合には、その者に対しての給与として課税されます。この場合には、経済的利益に係る給与として源泉徴収を行う必要が生じます。さらに、役員の場合、定期同額給与に該当しない給与(賞与)として法人税の課税対象として扱われることにもなります。 ◆役員・使用人の配偶者の健診費用会社負担 会社が役員または使用人の配偶者分の健診費用を負担している場合には、その役員または使用人の給与(経済的利益の供与)として扱われます。課税扱いとなる理由は、会社は、法律上、配偶者の健康診断の実施義務を負っているわけではないためです。 また、一部大企業では配偶者分も会社負担となっているところもあるようですが、まだまだ社会一般的に行われているとは認められていないため、経済的利益の供与=給与扱いとなります。給与扱いとなるわけですから、それに係る所得税の源泉徴収を忘れないようにしなければなりません。 ◆健診費用の消費税での課税仕入れ不課税 会社の福利厚生費として扱われる健診費用は、自由診療に該当するため、消費税が課税されています。消費税の計算においては課税仕入れとして扱います。 一方、給与扱いとなる健診負担分(配偶者や特定の地位にある者だけへの負担)にも、消費税は課されています。しかしながら勘定科目上は給与扱いですので、消費税の計算においては給与=不課税となります。領収書に消費税額の記載があるからと言って、課税仕入れとして扱わないように注意が必要です。

《コラム》副業・兼業における労働時間管理

◆副業・兼業をする雇用者が増加 厚生労働省は2018年1月以降、「モデル就業規則」に「副業・兼業」という章を追加し、副業・兼業を原則容認する内容に変更しています。 厚生労働省によれば、副業を希望する雇用者数(雇用者に占める割合)は、1992年の235万人(4.5%)から2017年385万人(6.5%)へ右肩上がりで伸びており、副業雇用者数も、1992年の76万人から2017年には129万人へ増えています。 ◆労働基準法改正による労働時間管理 中小企業には2020年4月(大企業は2019年4月)から、時間外労働の上限規制(罰則あり)が適用されています。 36協定による原則の上限時間(月45時間、年360時間)を超える場合は、36協定で特別条項を締結することにより、月100時間未満、2~6月平均80時間以下、年720時間以下までの時間外労働が認められます。 労働基準法38条1項では、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、(中略)通算する」としており、事業主(会社)が異なる場合でも通算されます。 なお、労働基準法上の労働者でない場合(フリー、独立・起業、共同経営など)や、労働時間規制が適用されない場合(農業・畜産業・水産業、管理監督者など)は、労働時間を通算する必要はありません。 ◆副業・兼業での労働時間管理 副業・兼業における原則的な労働時間管理のポイントは雇用契約を結んだ順番です。 例えば、A社(1日5時間、残業なし)で雇用されている労働者が、新たにB社(1日3時間、残業2時間)で雇用された場合、1日のうち、B社で勤務後にA社で勤務したとしても、後で雇用契約を結んだB社の2時間が時間外労働となります。 なお、副業・兼業開始前に両社の合計所定労働時間を法定内で設定する「管理モデル」を導入した場合は、法定労働時間を超えた時間に働いている会社で割増賃金が発生することになります。

《コラム》相続で所有者不明土地にしないために

 高齢化で相続が増加する中、利用されない土地が増えると、所有者が判明しない、又は連絡がつかない所有者不明土地が生じます。今年4月、これらの解消を目的とした民事基本法制の見直しが行われました。 1.不動産登記制度の見直し 相続登記が義務化され、不動産を相続により取得した者は、その取得を知った日から3年以内に相続登記を申請しないと10万円以下の過料が徴収されます。一方、相続登記はこれまで、登記義務者が共同して申請しなければなりませんでしたが、新たに相続人が自らを登記名義人の法定相続人であることを申し出れば、単独で登記申請できる「相続人申告登記」※が新設され、登記申請義務を履行したものとみなされます。また、令和4年の税制改正では、相続人の登録免許税の負担軽減措置が図られる見込みです。(※所有権の移転登記ではなく、報告的な登記とされます) 2.相続土地国庫帰属制度の創設 相続した土地を国が買い取る制度も新設されました。相続人にとっては朗報ですが、国は、安易な買取りを防ぐ観点から様々な条件をつけてハードルを高くしています。建物は相続人が取り壊して更地にすることや、土壌汚染や埋設物のある土地、崖地、担保権の設定された土地、通路に利用される土地、境界に争いのある土地などは、買取りの対象からはずされ、買い取る場合でも10年分の管理費用を国に支払うことが条件となるなど利用し難さが指摘されています。 3.土地利用に関連する民法の見直し 民法も新制度の後押しをします。遺産分割協議の長期未了状態を解消するため、相続開始から10年経過したときは、特別受益者の相続分や寄与分によらず、画一的な法定相続分で遺産分割することとなりました。 また所有者不明土地の利活用を促進する観点から新たな管理制度が創設され、選任された管理人が当該土地の管理や売却をできるようにしたほか、所有者不明土地を電気・ガス・水道などライフラインの確保に利用できるようになりました。 ◆相続で所有者不明土地にしないために 親世帯と同居することが少なくなり、相続が起きると土地や建物の利用目的が失われ、維持コストの負担も重くなります。行き場のない不動産としないためにも親の世代が将来の活用や処分に責任をもって臨むことが必要な時代になったと言えそうです。

《コラム》採用力を上げる求人票で押さえたいポイント

◆採用を成功に導くには 有効求人倍率はコロナ禍の影響もあり低調でしたが2021年6月が全国平均1.3倍と上昇傾向になってきました。採用を控えていた企業が採用活動に動き出しているのかもしれません。 採用活動は求職者に振り向いて自社に興味を持ってもらうところから始まります。採用力を上げて望むような人材に応募してもらうには何をすると良いでしょうか? 採用するためには企業力と条件と採用活動が必要です。①企業力とは会社の規模、歴史、認知度、イメージ、商品サービス等で、②条件と言えば労働条件や仕事内容、職場の活性度、勤務地、将来への期待、給与、福利厚生などを言います。③採用活動とは採用のための接触機会、求人媒体、露出度、ターゲット、マーケティング、求人原稿、掲載時期、面接、スタッフ満足度等で、①②というような条件は簡単に変えたり向上させたりは難しいので、採用力を上げるために③の採用活動の見直しをすることですぐに取り組めます。 ◆求人票で押さえておきたいところ①経営視点……事業のイメージや正社員かパートか、仕事内容や給与等について②法律視点……採用で禁じられている法律上の規制があります。労働基準法、職業安定法、男女雇用均等法、の3つは必ず守らなければなりません。③人を見る視点……求人する人のイメージを作ります。求職者が求人票を見てモチベーションが上がるように意識的な文章を盛り込んでいく事が大切です。 ◆「人」の視点が大事 ほとんどの求人票が経営と法律の視点だけを意識した求人票になりがちです。「人」の視点がないとすぐには向上できない企業力や条件で同業他社や大手企業と勝負しなければならないのです。求人票を「人」を意識した内容にすることで注目度が上がるでしょう。それには「自社の欲しい人材のイメージを明確にすること」が大前提です。欲しい人材が定まらないと自社に合った人材は応募してきてくれません。イメージを明らかにしたらターゲットに応募してもらうメッセージや条件を考えていきます。求職者に企業からの熱い思いを送りましょう。

《コラム》多様化している納税手段(最新:モバイルレジでの簡単支払)

◆どんどん便利になる納税手段 税務署や銀行での窓口納付が基本だった納税方法も、24時間対応のコンビニ納付が導入され、平日の勤務時間以外にも納税ができるようになりました。そして手元のパソコンからインターネットバンキングで納付できるPay-easy(ペイジー)が使えるようになり、わざわざ納税のために外に出掛ける必要もなくなりました。さらに、クレジットカードでの納付制度の導入で、いま手元資金がなくとも、納付期限までに納税できるしくみも導入されました。最新の方法としては、スマホで納付書のバーコードを読んで納付が完結するモバイルレジがあり、これだと納付に必要な納付番号や確認番号の入力も不要の簡単版です。 ◆モバイルレジとは モバイルレジとは、請求書に印刷されたバーコードをスマホで読み取り、ネットバンキング・クレジットカードでの支払いや、口座振替の申込みができるサービスです。コンビニや支払い窓口へでかけることなく、自宅で簡単に支払いができます。 税金のみならず、国民年金や国民健康保険、通販の請求書など、各種の請求書に対する納付にも使えます。 ◆短所・長所を比較して納税方法を選択する 新しい方法がいつもお勧めというわけではありません。それぞれ長所(メリット)と短所(デメリット)があり、それを比較してご自身で決めることになります。 モバイルレジの場合、アプリ導入が必要です。ネットバンキングを使う場合、金融機関との事前契約が必要です。スマホ機器がモバイルレジ対応であることが必要です。支払金額は30万円以下に限られます。 クレジットカード払いの場合、税額の他に決済手数料がかかります。納税証明書(車検用含む)の発行は、別途申請が必要です。資金繰りからすると、実際の現金引落日は利用するカード会社との契約となりますので、納期限日よりも資金決済が後となります。また、クレジットカードで付与されるポイントの有効活用ができる場合もあります。 コンビニ決済も支払金額は30万円以下に限られます。 銀行等での窓口納付では、クレジット納付はできません。ただし、手数料は発生しません。

《コラム》国際的な租税回避にデジタル課税の波

 今年7月、OECDでGAFAなど多国籍企業に対する新たなデジタル課税の導入が大枠で合意され、同月、イタリアで開催されたG20においても承認を受けました。合意内容はこれまでの国際租税法の枠組みを超える画期的なものとなっています。 ◆課税はローカル、経済はグローバル 課税権はそれぞれの国が持ち、課税対象、税率などを定めます。国際的な経済活動には2国間で租税条約が締結され国内法に優先します。外国法人は国内源泉所得に課税され、事業所得は国内に有する恒久的施設(PE)に帰属する所得のみに課税されます。 一方、経済は国家の枠組みを超え、グローバル化、デジタル化が進み、多国籍企業は法人税率の低い国に拠点を構え、日本などサービス消費国にPEをもたずに事業展開することにより租税を回避できます。 OECDで合意されたデジタル課税は、多国籍企業に新たな課税の仕組みを設け、PEが設置されない消費国においても売上に応じて法人税を課税できるようにするものです。 ◆デジタル課税の2つの柱第1の柱:グローバル収益に課税 グローバル収益が200億ユーロを超える多国籍企業を対象に、通常利益(税引前利益率を10%として算定)を超える残与利益(10%を超える部分の利益)の20~30%に対する法人税を、PEの有無にかかわらず、サービス消費国の間でそれぞれの売上に応じて按分します。 第2の柱:最低法人税率の導入 グローバル収益が7億5,000万ユーロ以上の多国籍企業を対象に、最低税率(少なくとも15%)による法人税を課し、子会社等が軽課税国にある場合は、子会社等に帰属する所得を親会社で合算し、最低税率までの上乗せ課税を行い(所得合算ルール)、親会社等が軽課税国にある場合は、子会社等の支払う使用料等は、最低税率の課税に服さない範囲で損金算入を否認する(軽課税支払ルール)など追加納税を課します。 ◆法人税率の引下げ競争は終焉か? これまで経済のグローバル化の中で企業を自国に誘致すべく租税競争が行われ、世界中で法人税率の引下げが行われてきました。今回のデジタル課税で設定される最低税率は多国籍企業に対するものですが、感染症の影響により世界中で財政支出が増大する中、財源確保のため法人税率の国際的な引下げ競争にも歯止めがかかりそうです。

《コラム》キャンペーン報奨でギフト券をもらった時の事業者等の課税関係

◆キャンペーン報償でのギフト券の所得課税 保険代理店業を行っている事業者が、保険会社の推進強化月間のキャンペーンで一定の成績を上げ、報償としてギフト券をもらいました。この場合の課税関係はどうなるのでしょうか? 事業者といっても、法人の場合と個人事業の場合の2つの形態があります。 法人=会社の場合は、「無償による資産の譲受け」としてその事業年度の収益の額となります(=雑収入計上します)。 個人事業者の場合も、事業を行ったことで得られたものですので、「事業に係る総収入金額」として課税対象となります。 いずれにしても、ギフト券の価値相当分は所得課税の対象となります。 ◆消費税の扱いはどうなる? では、その事業者が消費税の課税事業者であった場合には、ギフト券に係る消費税の課税問題も発生するのでしょうか? 消費税法では、キャンペーン報償のギフト券の取得は、「無償であって対価を得て行う取引ではありません」ので、もらった時には不課税扱いとなります。ただし、そのギフト券で事業に必要な物品等を購入した場合は、課税仕入れとして消費税の取扱いが発生することとなります。 ◆報償の対象者が個々の役員や社員の場合 また、もしも、こうしたキャンペーンでの報償対象者がそれぞれの事業者に属する従業員や役員・社員であった場合には、少し課税関係が変わってきます。 所得税基本通達では、「役員又は使用人が自己の職務に関連して使用者の取引先等からの贈与等により取得する金品に係る所得は、雑所得に該当する」としています。 雑所得となった場合、サラリーマンやOLで年末調整を受けている人は、20万円以下ならば確定申告をしなくてもよいとされています(ただし、勤務先からの年間給与収入が2,000万円以下の人に限ります)。 なお、上記の場合であっても、医療費控除やふるさと納税で確定申告をする場合には、雑所得として申告が必要となりますので、その分の計上を忘れないようにしなければなりません。

《コラム》災害を受けた時の住宅ローン控除の取り扱い

◆今年も豪雨被害が出ています 近年、日本各地で豪雨被害が毎年発生しています。被害に遭われた方にお見舞いを申し上げます。 近年では予報精度が上がり、避難指示等の発令についても迅速に行われるようになってきました。しかし、災害が発生しそう、または発生しているその場にいる人が動かなければ、予報も避難指示も意味がありません。まずは災害が起きる前に、避難ルートの確認や情報収集の方法を考え、備えておきましょう。 ◆災害時、住宅ローンの特例がある いざ災害等に遭ってしまった場合は、雑損控除や災害減免法による所得税の軽減や、申告・納税の猶予、法人税の繰戻し還付等の、税の優遇が受けられるものがいくつかあります。住宅ローン控除についても、災害により住宅用家屋が被害を受けた場合には、特例を受けることができます。 ◆適用期間の特例 基本的に、住宅ローン控除は「居住している」ことが条件となりますが、災害によって被害を受けたことにより居住の用に供することができなくなった住宅は、住宅ローン控除の残りの適用年においても引き続き住宅ローン控除を受けることができます。 ちなみに「住んでないのにローン控除」が認められているケースは他に「単身赴任で家族は住んでいる住宅」があります。 ◆重複適用の特例 被災者生活再建支援法が適用された市区町村の区域に所在する家屋が、災害により居住の用に供することができなくなった場合には、被災住宅の住宅ローン控除と、一定期間内に新たに住居用家屋の再取得等をした場合の住宅ローン控除を重複して適用することができます。 ただし、重複適用の特例を受ける場合は「それぞれの控除額の限度額のうち最も高い金額が控除限度額」となるため、2つの住宅ローンの合計額が大きい場合、すべての額が控除されるわけではありません。

《コラム》新型コロナウイルス感染症に係るワクチン職域接種の税務

 国税庁は、コロナワクチンの職域接種に係る税務上の取り扱いをFAQで公表しています。 ◆法人税の取り扱い 企業が新型コロナウイルス感染症に係るワクチンの職域接種を行う場合、市町村からワクチン接種に係る業務の委託料の支払いが行われますが、接種会場施設の使用料、接種会場での備品のリース費用、接種会場での臨時スタッフの人件費など、これらの費用が市町村から支給される委託料を上回るケースも考えられます。これらの費用は、社内の新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止し、今後の業務遂行上の著しい支障の発生を防止するものですので、企業の業務遂行に必要な費用の負担と考えられ、法人税法上の寄附金又は交際費等には該当しないこととなります。 職域接種の対象に、従業員と同居する親族、関連会社の従業員等、取引先の従業員等、接種会場の近隣住民を追加する場合であっても、この取り扱いは同じです。 ◆所得税の取り扱い 上記の職域接種にかかる費用が、その接種を受けた従業員に対する給与となることもありません。接種を受けた者が従業員以外の者であっても、所得税の課税対象となることはありません。 また、接種会場までの交通費を支給する場合については、職務命令に基づき出張する場合の「旅費」と同等と考えられますので、接種会場への交通費として相当な額であれば非課税となります。 さらに、役員及び従業員についてデジタルワクチン接種証明書の交付の費用を企業が負担した場合、業務遂行上必要であると認められるときは、その取得費用の負担は従業員に対する給与に該当しないとしています。 ◆消費税の取り扱い ワクチンの接種事業に関し、市町村と医療機関との間で委託契約を締結し、市町村から医療機関に対し委託料が支払われます。この委託料は「ワクチンの接種事業」を行うという役務の提供の対価であり、消費税の課税対象取引となります。

《コラム》資産移転の時期の選択に中立的な税制

 相続税と贈与税は、それぞれの税率に差異があるため、いつ財産を移転するかで税の負担に違いが生じます。生前贈与の動機ともなりますが、近い将来、この相続税・贈与税の制度は変わるかもしれません。 ◆欧米は、資産の移転時期の選択に中立的 欧米では、財産の移転について相続時にまとめて課税する方式をとっています。米国では、一生涯の累積贈与額と相続財産額に一体課税し、ドイツでは相続前10年間、フランスでは15年間の累積贈与額と相続財産額に一体課税します。 税率は、贈与税・相続税で共通のため、米国では生涯にわたる税負担が一定となり、同様にドイツでは10年間、フランスでは15年間、税負担が一定となります。これらの国では、資産の移転時期の選択に中立的な税制となっています。 ◆日本は、有利不利が生じる税率構造 これに対し、日本では贈与税と相続税は別体系で課税されます。生前贈与には「暦年課税」と「相続時精算課税」の2種類があり、暦年課税の場合は、相続前3年間、相続時精算課税を選択した場合は、選択後の累積贈与額と相続財産額に一体課税します。 相続財産が比較的少ない層にとっては、相続財産に適用される税率に比べ、贈与税の税率が高い水準にあるため、分割贈与をしても高い贈与税率が適用される余地が多くなり、贈与に抑制的に作用します。他方、高額な相続財産を有する層では、相続財産に適用される限界税率(55%)を下回る水準まで分割贈与することで、相続税の累進負担を回避して財産を移転できます。 一方、贈与税には、住宅取得等資金、教育資金、結婚子育て資金の非課税贈与制度があり、贈与による財産移転が有利となります。以上から、日本の税制は資産の移転時期の選択に中立的な税制ではありません。 ◆政府税調では税制見直しの議論が進む 政府税調では、相続税のもつ「富の再分配機能」「格差固定化の防止」の観点から、相続税・贈与税の見直しが議論されています。感染症やグローバル化の中、富が社会に偏在することは経済格差を生み、不安定な生活は人の幸せにつながらないことから、あらためて「資産移転の時期の選択に中立的な税制」が検討されています。財産を次世代に渡す高齢者世代も、受継ぐ若者世代も税制にとらわれず、それぞれの暮らし方に応じた時期の移転が望まれます。